雑踏展

  • 坂本 絵里
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  • Eri SAKAMOTO
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  • 《フードフィギュア》2011〜2024年/45mm×155mm×145mm、45mm×94mm×50mm/樹脂粘土、水彩絵の具、接着剤、ニス

  • 《フードフィギュア》2011〜2024年/35mm×60mm×85mm/樹脂粘土、水彩絵の具、接着剤、ニス

  • 《フードフィギュア》2011〜2024年/25mm×90mm×95mm/樹脂粘土、水彩絵の具、接着剤、ニス

作りたいのは、
皆が「クスッと笑顔になれるもの」

リビングの机に材料と道具を広げて、作品作りの準備を整え終える坂本さん。まずは粘土を手に取り、丁寧に練っていきます。出来上がりのイメージに合わせて樹脂で色味を馴染ませながら、時に力強く、時に優しく撫で付けつつクリームの生地を作っていきます。作っているのは、イベント出店の際にもよく作っているというモンブラン。とあるテレビ番組でマカロンが粘土で作られていくのを観て、自身も作品作りを始めるようになったといいます。先程までの少し緊張気味で照れ臭そうな様子から一変、真剣な眼差しで茶色い生地をクリーム用に細く糸状にしていきます。

彼女が作っているのは、粘土・パテ・ニス・樹脂などを用いて、まるで食べられそうなほど本物そっくりの食べ物に似せた模型の『フードフィギュア』。和食、洋食、中華、スイーツなど、これまで約14年間で作った作品はなんと1000点以上。「色を付けるのが一番楽しい作業」という言葉に裏打ちされたように、卓上に並ぶフードフィギュアたちに施された色彩表現はまさに職人技です。完成まで時間のかかる制作作業となりますが、「周囲の人からの反応が制作の原動力になっています」と、坂本さんは微笑みます。地域のお祭りに出店した際も、多くの人たちから声をかけられたそう。彼女の作品が多くの人を惹きつける理由。それは、クスッと笑顔になれるようなユーモアが盛り込まれているから。こぼれたお味噌汁に食べかけのショートケーキ、残された鮭の皮や骨、剥きかけのみかんなど…それらからはまるで、人の気配、時間の流れ、そこで交わされた会話などが連想されるような、自然な空気感が滲み出ています。「バナナの皮を模したフィギュアを食卓に置いておいたら、お父さんが片づけなさいと言い出して。ネタばらしをしたら悔しがっていました」と、坂本さんはクスクスと笑みを浮かべていました

さて、モンブラン作りもいよいよ終盤に差し掛かってきました。おっとりとした優しい話しぶりとは裏腹に、テキパキと手際よく作業を進めていく坂本さん。おもむろに取り出したのは歯科技工士などが使用する専門の工具。様々な用途に合わせた多種多様な工具を巧みに使いながら、表面の凹凸や質感を表現していきます。こうした工具などもご家族の協力があって少しずつ揃えていったもの。

「長年辛い症状を抱え大変な時期もありましたが、フードフィギュアを作るようになってから、前向きな性格になったように思います」と、傍で彼女を見守る母・弘美さんは、黙々と作業をする娘の姿を嬉しそうに見つめます。そうこうしているうちに、本物と見間違えてしまいそうなほど美味しそうなモンブランが完成。坂本さんはひとしきり満足そうにそれを見つめては、ぎこちなく、少し照れたような笑みを浮かべていました。

今回の展示会場『澤田屋』の名物、甲斐の銘菓「くろ玉」のフードフィギュア
左)歯科技工士の使う工具類などが取り揃えられた道具箱。用途は様々で、表現したい風合いに合わせて巧みに使い分けていく。右)イベント時のワークショップなどで作ることの多いというモンブラン。粘土に色を付け、意外な道具を活用しながら細い糸状のマロンクリームを表現していく。丁寧で繊細かつ手際よい仕事ぶりで、あっという間に作品が完成。近くで見ても本物にしか見えない妙作だ。

PROFILE PROFILE

坂本 絵里さかもと・えり

  • 1990年生まれ
  • 山梨県在住

和食、洋食、中華、スイーツ、…美味しそうな匂いが漂ってきそうな、本物と見紛う程リアルなフードフィギュアを制作する絵里さん。2010年から制作を始め、これまでに1000個以上の作品を作ってきた。制作のきっかけは粘土でのマカロン作りを紹介するテレビ番組を見たこと。失敗を何度も繰り返し、試行錯誤を重ねる中で自分なりの技法や工夫が編み出されていった。絵里さんの作品の魅力は、ただの食品サンプルに留まらずクスッと笑える表現がなされていること。こぼれた味噌汁、食べかけのショートケーキ、食べ残しの鮭の皮や骨、剝きかけのみかん。人の営みを感じさせる瞬間を切り取ることが、作品をよりリアルで温度のあるものに感じさせる。食べ物であることで身近な感覚を抱く作品ではあるが、一つの作品に施された手数や道具の数、費やされた時間は計り知れない。粘土や樹脂、パテを使い分け、ニスやレジンを重ね、乾くのを待ち、また手を加える。無数の工程を経て出来上がった作品は自信に満ち、凛と佇む。「作品を見てくれた人に笑顔になってもらいたい」と語る絵里さん。制作や作品を介した出会いによって自分を更新し続けている。
(YAN 山梨アール・ブリュットネットワークセンター 新田千枝)

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