あなたと一緒の食卓を
R5.3.26(日)しょうが焼き弁当 530円/美味しいねっ。次の日も頂きました。机の上に置かれたマグロの刺身をつまみに、ちびちびと口元で缶を傾ける小林さん。一日をベッドの上で過ごす彼の楽しみは、ヘルパーさんに買ってきてもらったお弁当を食べること。そして、美味しかったそれらを描くこと。なぜなら、昔から食べることが大好きだったから。そして、数年前に患った病気で、両足が動かなくなってしまったから。
R5.7.2(日)うな重 900円/今年初のうな重です。旨いっ。色とりどりのマジックペンで描かれるお弁当は、どれも出来立てのように瑞々しく、まるで蓋を開けた瞬間の高揚感が香り立つ。聞けば子どものころから絵を描くのが好きで、学生時代には美術部で油絵に打ち込んでいたという。飛び出す絵本のように立体的な作品や、隠れている食材も見えるよう、メインディッシュがめくれる仕掛けの作品も、彼ならではの遊び心。
R6.2.25(日)四川麻婆豆腐&炒飯弁当 690円/麻婆豆腐辛いねっ。チャーハンあまり美味しくなかったですねっ。「健康だった時より、食が大切に思えるんですよ」。例え自分の口に合わなくても、小林さんはそれをゆっくり味わいながら、一つひとつの食材を繊細に描き出していく。病気を患う以前、彼は長らく飲食業界で自らの腕を磨いていた過去がある。その時のレシピを綴ったイラストメモが、まさか今の作品の礎になるとは思ってもみなかっただろう。ご飯が大好きだからこそ、ご飯を作ってくれる人への感謝と尊敬は忘れないでいる。
R6.3.3(日)長寿庵 なべ焼きうどん 1,350円/いい匂いっ。旨いっ。一年ぶりのお蕎麦屋さん、美味しかったですね。一年に数回外食に出かけ、付き添いの皆と食卓を囲むこともある。彼がこの時間をどれほど楽しみにしているか。ただ、慣れない環境ゆえに、出先で突然容態を崩してしまったこともある。「本当は楽しく食べて、楽しく帰ってきたいですよね。美味しかったね、って」。長年彼を支えてきた支援員の長島喜一さんは、少し丸まった寂しげな背中を見つめながら、「大丈夫、また一緒に行こう」と、励ましの言葉をかけていた。
R6.7.30(日)小林邸にて 取材後/お話しできて楽しかったです。また来てください。やっぱり人と一緒に食べるご飯が一番美味しいですから。次に彼のもとを訪ねるのはいつになるだろう。今日もテレビが流れる静かな部屋で、「美味しいねっ。」と呟いているのだろうか。今度は故郷の美味しい食べ物をたくさん持ち込んで、ああでもない、こうでもないと、また他愛のない話ができたらいいなと思う。もちろん、例の缶飲料も忘れずに。だからそれまで、どうかお元気で。