雑踏展

  • 小林 一緒
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  • Itsuo KOBAYASHI
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  • 《うな重 等》2024年/254mm×499mm×302mm/紙、鉛筆、色鉛筆、水性ペン、油性ペン、シール

  • 《全部のせのり弁当》2024年/294mm×212mm/紙、鉛筆、色鉛筆、水性ペン、油性ペン、シール

  • 《ハンバーグ&カットステーキ弁当》2022年/294mm×212mm/紙、鉛筆、色鉛筆、水性ペン、油性ペン、シール

あなたと一緒の食卓を

R5.3.26(日)しょうが焼き弁当 530円/美味しいねっ。次の日も頂きました。机の上に置かれたマグロの刺身をつまみに、ちびちびと口元で缶を傾ける小林さん。一日をベッドの上で過ごす彼の楽しみは、ヘルパーさんに買ってきてもらったお弁当を食べること。そして、美味しかったそれらを描くこと。なぜなら、昔から食べることが大好きだったから。そして、数年前に患った病気で、両足が動かなくなってしまったから。

R5.7.2(日)うな重 900円/今年初のうな重です。旨いっ。色とりどりのマジックペンで描かれるお弁当は、どれも出来立てのように瑞々しく、まるで蓋を開けた瞬間の高揚感が香り立つ。聞けば子どものころから絵を描くのが好きで、学生時代には美術部で油絵に打ち込んでいたという。飛び出す絵本のように立体的な作品や、隠れている食材も見えるよう、メインディッシュがめくれる仕掛けの作品も、彼ならではの遊び心。

R6.2.25(日)四川麻婆豆腐&炒飯弁当 690円/麻婆豆腐辛いねっ。チャーハンあまり美味しくなかったですねっ。「健康だった時より、食が大切に思えるんですよ」。例え自分の口に合わなくても、小林さんはそれをゆっくり味わいながら、一つひとつの食材を繊細に描き出していく。病気を患う以前、彼は長らく飲食業界で自らの腕を磨いていた過去がある。その時のレシピを綴ったイラストメモが、まさか今の作品の礎になるとは思ってもみなかっただろう。ご飯が大好きだからこそ、ご飯を作ってくれる人への感謝と尊敬は忘れないでいる。

R6.3.3(日)長寿庵 なべ焼きうどん 1,350円/いい匂いっ。旨いっ。一年ぶりのお蕎麦屋さん、美味しかったですね。一年に数回外食に出かけ、付き添いの皆と食卓を囲むこともある。彼がこの時間をどれほど楽しみにしているか。ただ、慣れない環境ゆえに、出先で突然容態を崩してしまったこともある。「本当は楽しく食べて、楽しく帰ってきたいですよね。美味しかったね、って」。長年彼を支えてきた支援員の長島喜一さんは、少し丸まった寂しげな背中を見つめながら、「大丈夫、また一緒に行こう」と、励ましの言葉をかけていた。

R6.7.30(日)小林邸にて 取材後/お話しできて楽しかったです。また来てください。やっぱり人と一緒に食べるご飯が一番美味しいですから。次に彼のもとを訪ねるのはいつになるだろう。今日もテレビが流れる静かな部屋で、「美味しいねっ。」と呟いているのだろうか。今度は故郷の美味しい食べ物をたくさん持ち込んで、ああでもない、こうでもないと、また他愛のない話ができたらいいなと思う。もちろん、例の缶飲料も忘れずに。だからそれまで、どうかお元気で。

左)15年以上にわたって小林さんの支援をしている、『三郷市障がい福祉相談支援センターパティオ』の長島喜一さん。病状の悪化などで小林さんがペンを握れない時にも、献身的に寄り添いながら彼の作品制作を支えた。右)お弁当の具材はもちろん、別添え調味料の小袋なども事細かに描いていく。
普段歩くことがないので食が細く、1食のお弁当を2日かけてゆっくり食べることもあるという小林さん。過去に飲食業界で働いていたということもあり、「美味しい・まずい」の評価ははっきりしている。一番の好物は寿司で、この日もヘルパーさんによく注文するというマグロのお刺身を美味しそうに食べながら、終始にこやかに話をしてくれた。

PROFILE PROFILE

小林 一緒こばやし・いつお

  • 1962年生まれ
  • 埼玉県在住

『いっただきま〜す!! さあ 食べるか』
「わ!! なにこれ?」 
「旨そう! 今日の夕食 うなぎ弁当だね」アート展会場の一角で 食い入るように 見つめている方々が 感嘆の声をあげている 彼が ヘルパーに買ってきてもらい食べた弁当〝鮭弁当〟〝天ぷらそば〟〝中華あんかけ丼〟〝カツ丼〟などだ 病気のため歩けない彼は 一日中ベッドで過ごす 手や腕は動く おしゃべりも好きだ 子供の頃から描くのが好きだった ベッドでもできること それは描くこと 描く対象は 大好きな「自分が食べた物」
画材の紙は 何故かヘルパー事業所のカレンダーの裏紙 何ともユニーク 障がい者施設で作っている和紙をいただいた 今はその和紙が気に入りそれに描いている 彼は「カレンダーの裏紙より上手く書けるよ 裏紙よりずーっといい」と「今まで散々裏紙に世話になったのに その言い方はないでしょ」とたしなめると 笑っていた 絵の特徴は、リアリティで繊細だ 本物より旨そうとも 弁当の下にある 見えない部分も描いている その方法は 絵をめくれるようにしている
もう一つテーブルの左片隅に必ず鎮座している物がある プシュすると 泡が出る缶である それは何か あえて語るまい 彼とは、小林一緒さんである (三郷市障がい福祉相談支援センターパティオ 長島喜一)

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