若き「正義の開発者」が
守るもの
海維人さんが統括を務める秘密警察では、日々さまざまな任務が遂行されている。次々と襲いかかってくる“敵”との攻防戦、鬼退治、宇宙空間のパトロール、そして庭の畑仕事や大好きな母・美恵さんの手伝い。爽やかな緑と段々畑を望むこのラボで日夜任務に勤しみ、日本と家族の暮らすわが家の平和を守っているのだ。
「“敵”と戦うために開発しているんです。まあ…つまり“正義”って、ことかな」
これが若き開発者の口癖。保育園の先生から教わった“正義のヒーロー”を描くことから海維人さんの開発は始まった。幼少期はペンを握ることもままならないほどに力が弱く、今のように人と目を見て話すことも難しかったそうだ。次第に描くもののバリエーションを増やしながら、ついには凄まじいパワーで部屋の中を埋め尽くすほどの作品を開発するようになったのだという。すくすくと育った健康的な身体と、得意げに作品を紹介する我が子の横顔を美恵さんは愛おしそうに見つめていた。
両手に武器を握る忍者、いくつもの腕が伸びた仏像、空中に漂う飛行船 etc.。「アニメやゲームが大好き」という彼の心象世界で、縦横無尽に飛び回る正義のヒーローたちだ。マジックペンで几帳面に描かれたそれらは、緻密な構成でいて色彩は驚くほど鮮やか。ロボットのようにメカニックな質感とフォルムでありながらも、今にもイキイキと動き出しそうな“生の温かみ”が感じられるようにも見える。家族と出かけた様々な場所の思い出も開発のヒントになっているのだと、美恵さんは優しい口調で付け加えた。
「では始めるとしよう。ショータイム!」
先ほどまでのハツラツとした様子と打って変わって、一心不乱に机に向かって大きな背中を丸める海維人さん。下書きはなく、一気にマジックペンで開発を進めていく。額の汗を拭い、頭のてっぺんを掻きながら、時折「んー」と虚空を見つめる。
こうなってしまうともう彼の耳に言葉は届かないのだ。まるで広い広い頭の中の宇宙をパトロールしているように。おじいちゃんと出かけた遊園地、家族でイルカショーを見た水族館…。そんな温かい思い出の中を漂いながら、大切な家族と海維人さんの世界を守るための正義の旅に出かけていくのだ。