雑踏展

  • カズ・スズキ
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  • Kazu SUZUKI
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  • 《無題》1993〜2024年/すべて綿、毛、合成繊維

  • 《無題》1993〜2024年/2900mm/毛、合成繊維

  • 《無題》1993〜2024年/2850mm/毛、合成繊維

まきこみ、つらなり

「誰もが生き生きと暮らせる社会を目指して」という理念で、平成元年(1989年)に設立した『手織り工房のろぼっけ』。“自分の感じるままに、好きに好きに織る手織り”として、大阪を拠点に活動していた城みさを氏が提唱した手織りの技法、“さをり織り”を用いた作品制作を行っている。ここで独自の手法で作品を生み出しているのが、カズ・スズキさん。通常は織り機にセットした縦糸と横糸を交差させながら1枚の布を編んでいくが、カズさんの場合は知的に障害があるため、織り機を上手く操作できず、糸を交差させることができない。よって、縦糸の1箇所に何度も横糸をぐるぐる巻きつけることになり、所々がこんもりと丸くぶ厚くなったり、千切れてしまいそうなほど細い箇所があったりと、独特な連なりが出来上がっていく。

「何か息子にできることがないかと模索していた時に、たまたま友人の勧めで“さをり織り”に出会ったんです。現在うちでは“喜びを積む”という意味で“織り”と呼び、利用者と共に制作を行っています」

そう話すのは、この工房の創設者であり、カズさんの母親・鈴木利子さん。工房設立当時、通所施設での作業から帰りに辛そうな表情を浮かべていたカズさんを見かね、「いきいきできる場所を」と手織り工房を立ち上げるも、始めは全く興味を示さなかったそう。そこで彼自身に好きな糸を選ばせるようにしてみたところ、ある日突然作業に没頭しはじめ、現在の作風の原型となるものが出来上がった。「今までは彼に対して“教える”ことをしていましたが、それ以来“引き出す”ということに重きを置くようになりました」と、利子さんは当時のことを語る。

「やっぱり世の中にはいいと思ってくれる人がいる、どういう風に織ってもそれは彼の作品、そう今は実感を持って言えます」

「まだ兄が幼い頃は、一般の人がなんだこいつは?という目で障害者を見る時代だったんですよ。それが嫌だった。まだまだ少しずつですが、社会に障害者が出ていくようになってきている、お互いが理解するためには接点をとにかく増やすことが必要」

カズさんの弟である鈴木隆志さんは、兄の様子を見つめながら正直な思いを打ち明けてくれた。作品を作り始めるとすぐに周囲から注目を浴び、展覧会への出品などが増え始めたころ、さんも一念発起してこの工房へ就職。現在は代表へ就任し、カズさんをはじめとする通所者のサポートにあたりながら、障害者支援の啓蒙活動を行っている。

本人は意図せずも、彼の存在に家族の運命はぐるぐると巻き込まれ、その関係性も起伏を繰り返してきた。温和で人に気を遣う性格だというカズさんは、そんなことを知ってか知らずか、少し俯きながらも家族たちの様子をチラチラと見ている。まるで家族の繋がりを案じるように、ぐるぐるぐるぐると手元の糸を分厚く重ねながら。

母・利子さんはその昔「作品だと捉えられなかった」と話す。作品に価値がついた時の衝撃が忘れられないという。取材当時は少し緊張気味で、黙々と作品作りに取り組んでいたカズさん。普段は喋ることと歌うことが大好きだそうで、時折施設に通う利用者であるご友人とのエピソードを楽しそうに語ってくれたのが印象的だった。
左からご家族の妹・陽子さん、母・利子さん、ご本人、弟・隆志さん。

PROFILE PROFILE

カズ・スズキかず・すずき

  • 1963年生まれ
  • 栃木県在住

知的に障がいがあり、簡単な動作を理解すること、人まねをすることが難しい。息子にできることを模索していた母利子が、平成元年(1989年)に「感性を引き出す」さをり織りに出会う。地元で手織り教室を開くも、本人は関心を示さず、4年間織機に触れることもなかった。もう織りは無理かとあきらめかけた頃、突然織機に向かい、猛然と織り始める。手織りの基本操作からは逸脱した創作法で、出来上がる作品は怪獣のような立体の造形物になった。当初は周囲も当惑したが、さをり織りが提唱する「芽が出るのを待つ。いじればこわれる」という理念に共鳴し見守ることに。現在ではそれが作者独自の創作表現法となり、個展はじめ国内外の様々な展示の機会を得ている。
(手織り工房のろぼっけ 鈴木隆志)

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