心を丸く、輪の中にはアートがある
– まずは自己紹介をしていただけますか? はい。私は重症心身障害者、重度の知的障害者向けの通所施設『サポートセンターハロハロ一番館』のアート部門専任であり、奥山公男さんの支援担当をしている丸山大祐です。この間まで元気に通所していたのですが、先日少し持病が悪化して療養に入ってしまいまして。今日はすみませんが、代わりに私の方から彼についてお話しさせていただきます。
– 奥山さんは普段どのように作品を作られているのですか? そうですね、彼はいつも用紙に向かうとまず一定のリズムでたくさんの「丸」を描いていきます。色ペンや色鉛筆が好きで、様々な色のそれを紙一面に散りばめていく。すると今度はその丸の中を複数の色で塗り潰していきます。一つひとつ丁寧に色を使い分けながら、誰にも真似できない独特のグラデーションを生み出すんです。ひとしきりそれが終わると、余った隙間にまた小さな丸を描いていくんですよ。きっと余白を残しておけない性格なんですね(笑)。一面をびっしりそれらで埋め尽くしてしまうと、ようやく作業は終了。明るく温かみのある一枚の作品が出来上がるんです。
– 作品を描いているという自覚はあるのですか? おそらくそれは無いと思うんですよね。本人にとってそれは創作活動ではなく、「楽しい」とか「落ち着く」行為なんだと思います。奥山さんは普段他の利用者さんとも仲良く過ごされていますが、本来は人見知りの恥ずかしがり屋で、緊張やストレスを心に溜め込んでしまうタイプなんです。それが今回のように身体に現れてしまう部分も、少なからずあるのかもしれません。でもここで作品と向き合っている時には、とても穏やかに微笑んでいるんですよ。周りがいくら賑やかでも、一人静かに黙々と。時折「楽しいよー」なんて呟いているんですけど、そういった心の安心感が作品の色彩などにも表れているような気がしますよね。
– 何か印象に残っている出来事は? そうですね。このように奥山さんの作品は丸が描かれることが多いんですけど、稀に「鳥」とか「魚」とか、生き物のようなモチーフを描いたりするんですよ。気分転換なのか、そういうのを見ると、何だか少し嬉しくなるんですよね(笑)。今日はちょっといつもと違う気持ちなのかな、なんて思ったり。
– レアケースですもんね(笑)。最後にこれからの作品作りについて一言お願いします 先程言ったように、奥山さんは積極的に人と関わるのが苦手な人なんですね。でもこうして作品を作っていると、自然と周りに人が集まってくる。この行為が周りの人と自分を繋いでくれるツールになっているんです。おかげで皆と良い関係を築けていますし、精神状態も良好に保てているのだと思います。ですから一支援者としてもアート部門担当としても、彼の自己表現やコミュニケーションを助長する「落ち着く」場所を用意できるよう、サポートしていきたいと思っています。