ねえ、たけちゃん

「たけちゃん!」
そう呼ぶと、にこにこの笑顔でポージングしてくれるのが、社会福祉法人さかき会が運営する『みらいファーム』のムードメーカー、横山岳史さん。

「作品のテーマは…愛、恋、心…です。…ドキドキします。」
岳史さんはいつでも“恋“をしています。キャンプで仲良くなった彼女、優しく支援してくれるあの人、そして春の風や優しい陽の光…。豊かでおおらかな感性に触れるそれらは、彼の日々に彩りを与え、創作心を揺さぶる大きな原動力になっているのだといいます。

岳史さんがここに来るのは週に5日。そのうち月、火、金曜日は自分たちで育てた野菜の袋詰めなどの作業を行い、残りの日は丸一日絵を描きます。まずは紙の上にフライパンの蓋を乗せ、シルエットに沿って大きな円を描くと、CD、定規など、身の回りの道具を使い円や三角を描き込んでいく。それらで円の中がぎっしり埋め尽くされると、やがて色が彩られていきます。

「制作に一生懸命取り組んでいる姿を見ると、本当に感心させられますね。ねえ、たけちゃん。みんなが絵を褒めてくれて嬉しいね」

25年以上にわたって岳史さんを支えてきた支援員の青柳一美さん。「たけちゃんの笑顔を見てると、こっちまで優しい気持ちになりますよね」と、ともに過ごしてきた季節を優しく振り返ります。岳史さん、本当にたくさんの人に愛され、そして愛を与えているんですね。
最近の制作では色づかいや精密さに磨きがかかる一方で、びっしりと図形が詰まっていた円に少し余白が残されるように。もしかしたら年齢を重ねる中で、少しずつ制作へ向き合う姿勢も変化してきたのかもしれません。でも、それがまた見る人の想像力を掻き立てる魅力になっている。近年では甲州市勝沼町にあるワイナリーのワインラベルに作品が採用されたり、河口湖のホテルや、大手コーヒーチェーン店に絵が飾られたりと、多方面に活躍の場を広げているのだといいます。

「僕が絵を描きました。ぜひ見てください」
自身が掲載された新聞の切り抜きをこちらに向けながら、いつものくしゃっとした笑顔を見せる岳史さん。施設ではすっかり“お兄さん”の立場となったそうで、「ふみと、がんばるよ」と、年下の利用者さんに言葉をかけるなんとも頼もしい姿もありましたが、やっぱりこの表情こそが、たけちゃんの魅力ですよね。