雑踏展

  • 三科 琢美
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  • Takumi MISHINA
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  • 《流動体》2025 年╱ 2100mm × 15000mm ╱紙、インク、澱粉のり

  • 《線の生命体》 2025年╱2080mm×400mm×400mm╱紙、インク、澱粉のり

そこに在る

畳の上に広げられた大きな巻物の端に、三科琢美さんは、ぽつんと座っていました。まるで紙に吸い寄せられているかのように。背筋をわずかに丸め、じっと一点を見つめたまま、手だけが滑るように動いています。ペン先と紙が擦れる音が、わずかに響く静かな部屋。その姿は、何かに取り憑かれたようでもあり、何かを手繰り寄せているようでもありました。

「描いているというよりは、描かされてると感じる時があります」 彼のキャンバスは、広告の裏や紙袋の切れ端など、日常に埋もれていた紙たち。つなぎ合わされたそれらは、黒々とした線で覆われ、どこまでも這い回るように広がっています。道具は油性ペン、ボールペン、墨。決して特別な材料を使っているわけではありません。それでも、三科さんの手にかかると、それらはまるで生命が宿ったかのように、ゆっくりと息をし始めるのです。

澱粉のりを染み込ませた紙を貼り重ねて作られる造形物は、ごつごつとした岩のような様相を表す

「“終わり”という考えがないんです」。描き足し、貼り足し、そして描き直す。その繰り返しのなかで、作品は日々、少しずつ形を変え、生まれ変わり続ける。立体作品もまた同様に、ちぎった紙をのりで固め、線を重ねて形づくられていきます。『線の生命体』と名付けられたそれは、絵でも彫刻でもない、けれど確かに“生きている”形を成している。

「自分の顔を誰にも見られたくなくて、ずっと部屋にこもって線を描いていました」

アトピー性皮膚炎に悩まされ、人目を避けて過ごした思春期。鏡を見ることすら嫌で、ただ手や顔に浮かぶ湿疹のようなイメージを細い線で紙に描き続けた日々が、自分のアートが生まれた原体験だったと話す三科さん。ただ描くことだけで何かが少し軽くなっていった感覚があったのだといいます。

左)一点を見つめる眼差しは真剣でありながら、まるで宛てもなく虚空を眺めているかのようにも見える 右)時に涙を浮かべながら想いを語ってくれた三科さん。様々な感情が形と成り、無二の存在感を放つ

「絵を描いていて感動する瞬間って、1日に1回あるかないか。1週間まったくないこともありますけど、その一瞬のために描いているんだと思います」

時折、描かれた線の中に、人の顔や、身体の曲線のようなものがふと浮かび上がることがあります。「でも意識して人を描こうとすると、いい線が描けなくなってしまう」。形を求めた瞬間、線は息を止めてしまう。だから彼は、意味を決めず、ただただ無心で線を刻み続けています。

愛知県に住むご両親との一枚。実家に隣接するアトリエは、祖父母がかつて暮らしていた大切な場所

わからなさや迷い、不安定さを抱えたまま、それでも描き続ける。三科さんの線には、名づけられない感情や、言葉になる前の衝動のようなものが、確かに在ります。

PROFILE PROFILE

三科 琢美みしな・たくみ

  • 1981年生まれ
  • 鹿児島県在住

「自分自身の手から、思いもよらない形が生みだされること」。三科さんが描くことの動機である。「描くこと」は、何かを再現したり、具体的な対象を指し示したりするためではない。沸々と湧き出す、やむにやまれぬ衝動がペンを伝い、インクの痕跡となって紙の上に刻まれ、結合と分散を繰り返しながら、揺らぎを孕んだ不定形な存在として現れていくのだという。雑誌や広告紙、包装紙など、描画用紙ではない紙に描くのは、生活と「描く」ということを切り離さず結びつけていきたいという思いから。痕跡は重なり、集積し、時に紙そのものが立ち上がるように広がっていく。固定や限定、区切りのない解放感のなかで、問い、定め、壊し、また問い直す——その無限の暗中模索を経て、未開拓な領域に分け入り、「描くこと」の可能性を押し広げていくことを願う。その姿勢は、求道者の静かな道程を思わせる。その手から立ち上がる形は、驚きや高揚を伴いつつ、そっと他者の感覚に触れていく。(YAN 山梨アール・ブリュットネットワークセンター 新田千枝)

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