name for you

「こうしているのが、自分にとって自然なんだよね」
山梨県甲府市の田園風景に佇む一軒家。その中にあったのは、飾られた絵、立体物、工具、床に散らばる木くず。まるで“生きること”と“作ること”が溶け合い、彼の思考と感覚がそのまま形を持って立ち現れているような空間でした。

「時間の感覚を捉えるのが難しいんだよね。だからいつからものを作っているのかって、正直わからないかな」 1歳半から呼吸をするようにものを作り続けてきたという彼。クジラの体内に広がる小さな世界や、手の中に握られた地球のような球体を見つめる魚など、作品に描かれるのは、繊細な線と不思議なモチーフの数々。
「立体物と違って絵は難しいよね。緑の葉に垂れる朝露とか、バスタブで耳にする雨音とか、いつか目や耳にした刹那のイメージが自分の感覚と重なる瞬間を待つというか。ふっと様相を帯びてくるそのタイミングを、逃さず捉えないといけないから」
“経過”という流れの外にある彼の心には、まだ形を成していない風景や印象たちが不順序に沈み重なっているのでしょう。そこに描き表されているものは、彼の感性が捉えてきたイメージのコラージュであり、大切に残しておきたいポートレートのようなものなのかもしれません。

「やってみたいことや学びたいことはたくさんある。だからある意味浮気性なんだよね。でもおかげで『これはこう』って凝り固まらないで済んでるっていうか、選択肢を多く持ててはいるかな」
子どもたちと一緒にパンを焼いたり、野菜を作ったり。自身が主催するアートスクールの話をしている彼は穏やかな表情を浮かべていました。その背景にあるのは、自由な発想を否定せずいつも彼の活動を近くで見守ってきた母・涼子さんと、不安定な時にも言葉なくそばにいてくれた弟・慶介さんの存在。優しく温かいまなざしの中で育まれた自由な感性に、家族もまた救われているのかもしれません。

「みんな名前があると安心するじゃないですか。その方がわかりやすいし、わからないものが怖いから。本来はみんな違うんだけどね。でもこの個性に名前があることで少しだけ理解してもらえることもある。こういう考え方や生き方を“選択肢のひとつ”として感じてもらえると嬉しいかな」

彼の作品は“答え”ではなく、葛藤のような、あるいは希望のようなもの。静かで力強い眼差しをこちらにまっすぐ向ける彼は、関根悠一郎さんという名の人でした。